超伝導コイルへの電流の流し方

気になっていたんですよ。 というか使っていたのにちゃんと理解していなかった。

極低温での物理実験や、MRIなどでも使われたりする超伝導コイル。

しかし、この超伝導コイルにどうやって電流を流すのか不思議だった。

というのも自分の指導教官が 「超伝導コイルに一旦電流を流したらあとは、抵抗が0だからずっと流れ続けるから途中から電源はいらなくなるんだよ。」

とかいうものだからどうやって電流をコイルに流してそこから電源を切り離すのかよくわかっていなかった。 「ヒーターで少し温めて超伝導を壊してそこから電流を流してまた冷やして電源と切り離す。」 と口で説明されたのだが正直その時はよくわかっていなかった。 今日この説明の意味がやっとわかったので、超伝導コイルへの電流の流し方について説明します。 画像を入れながら定性的な説明をしていきます。

超伝導コイル

超伝導が何かはこの記事を読んでいる人ならわかるだろう。 温度を下げていくとあるところで電気抵抗が0になる現象だ。 しかし、この超伝導はあらゆる物質に起きる現象ではなく、特定の物質だけで起きる現象で、超伝導が起きる物質を超伝導体と言ったりする。 超伝導コイルはこの超伝導体で作られたコイルのことだ。

超伝導コイルの特徴は極低温で抵抗が0になることだ。抵抗が0になるので電流を流しても抵抗による熱を発しない。 そのため極低温の実験や装置で磁場を発生させたいときに用いられる(普通に超伝導じゃない金属でコイルを作ると抵抗による熱で周りの温度が上がってしまうため極低温環境を壊してしまう)。

また抵抗が0なのでうまく電流を流して、うまく輪っか(回路)を繋げれば電源がなくとも電流がずっと流れ続ける。 今回はこのコイルにうまく電流を流す方法を説明していこう。

回路

こんな感じだ。赤いところが超伝導で、黒い部分は常伝導です。 f:id:mashiroyuya:20170708120306p:plain

超伝導コイルに電流を流す手順

まず100Aの電流を流すと

この回路に100Aの電流を流してみよう。 しかし、一気に100Aの電流を流すことはできないので0Aから徐々に100Aに電流を大きくしていくことを考えてみる。

このまま100Aの電流を流しても実はコイル側には電流は流れない。

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なぜならコイルにはインダクタンスという性質があり、電流の変化に対して電流が流れにくくなってしまうのだ。 超伝導状態で抵抗が0にはなったが、コイルの性質により抵抗(正確にはインピーダンス)が生まれてしまい、電流がコイル側には流れないのだ。

コイル側に電流を流すために

コイル側に電流を流すために直線の側の超伝導を少しヒーターで温めることで超伝導状態を壊します。 超伝導状態を壊すことで直線部分に抵抗が生まれ、コイル側にも電流が流れ始めます。 並列回路のオームの法則ですね。

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このとき電流を0Aから100Aにするのでしたが、とてもゆっくり電流を変化させればコイルのインピーダンスの大きさは直線部分の抵抗に比べ十分小さくなることができるため、ほとんどの電流をコイル側に流すことができます。

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ここでヒータを切って電流を小さくしていく

100Aの電流が流れたところで超伝導の直線側を温めていたヒーターのスイッチをoffにし、直線側も超伝導状態に復活したとしましょう。 ここで電源の電流を先ほどとは逆に100Aから0Aへと減らしていきます。

するとどうなるでしょうか。

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コイルから出ていく電流は分岐点Aで電源の側には抵抗があるため、超伝導状態で抵抗が0である直線側へと向かいます。 このように超伝導状態の直線側に自然と電流が流れ始めます。

このように超伝導のループに電流が流れ始め、だんだんと電源の側の電流を0Aにしていくと、最終的には超伝導のループでずっと100Aの電流が流れ続けるのです。

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これにより超伝導コイルに電流を流し、電源を切り離すことができました。

なんともうまいやり方です。

まとめ

超伝導コイルに電流を流す際に一旦ヒーターで超伝導を壊して電流をコイルに電流を流し込む事で超伝導のループの中に電流を閉じ込める方法について説明しました。

しかし、実際の装置ではさらにたくさんのことを考慮しなくてはいけません。 やっぱり気になるのが超伝導(極低温)と常伝導(室温)のつなぎ目ですよね。 何も考えずに直で繋いだままだと室温側から熱が伝わってきて、超伝導を温めてしまいそうです。 かといって熱の伝わりづらい金属を使うと次は電流が伝わりづらくなってしまいます(熱は主に電子の運動エネルギーによって運ばれると考えると、熱が伝わりづらい⇨電子の動きが伝わりづらい⇨電流が流れにくい)。

こういうところも工夫されて超伝導コイルは作られていると思うとそういう技術者は