完全反対称テンソルとクロネッカーのデルタの公式

反対称テンソルテンソルの添字を入れ替えると符号が変わるテンソルです。
例:

 T_{ij} = -T_{ji}

またこの性質をもっており値が 1 or -1 or 0 の反対称テンソルを完全反対称テンソルといいます。

今回はこの完全反対称テンソルクロネッカーのデルタで展開する方法を紹介します。 公式としては面倒なのでどのように書くか、どのように考えて展開できるかを話していきます。 この記事では3階の完全反対称テンソルである"レヴィ=チヴィタの記号"について紹介します。

レヴィ=チヴィタの記号

レヴィ=チヴィタの記号というのは3階の完全反対称テンソルです。
添字の順番が123に対して偶置換か奇置換で次のように定義されます。

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(例 : \epsilon^{123} = 1,\epsilon^{213} = -1)
また添字のいずれかが同じ時は0になります。(例 : \epsilon^{112} = 0)

これを例にしてこの和をクロネッカーのデルタで展開します。

レヴィ=チヴィタをデルタで

まずレヴィ=チヴィタの添字が2つだけ和が取られているとき、 それをクロネッカーのデルタで展開した公式は


\epsilon_{ijk} \epsilon_{ilm}
= \delta_{jl}\delta_{km} - \delta_{kl}\delta_{jm}

となります。

考え方(導出)

完全反対称テンソルについて考えるときにはその反対称性を考えることで上の式を導出していきます。

まず\epsilon_{ijk} \epsilon_{ilm}というのは4つ足がつくテンソルになるのでクロネッカーのデルタで展開したときに 2つのデルタの積の多項式になることはすぐにわかります。

 \delta \delta + \delta \delta

次に添字の反対称性に注目します。これはj \leftrightarrow  kl \leftrightarrow m について反対称なテンソルです。なのでクロネッカーのデルタをそのような添字の組になるように組み合わせます。

デルタの数を添字の数から考える

まずj , kについて。クロネッカーのデルタは対称テンソルなのでj , kが同じデルタにはつきません。なのでまず適当に第一項のデルタのそれぞれに足をつけます。

 \delta_{j}\delta_{k}+ \delta \delta

反対称性から添字を付けいていく

つぎに反対称になるように第二項には添字を逆に付け、かつ符号を逆にします。

 \delta_{j}\delta_{k} - \delta_{k} \delta_{j}

これでまずはj , kについては反対称(つまり入れ替えるともとの符号が逆になったものになる)になっていることがわかります。

l , mについても同様にすると

\delta_{jl}\delta_{km} - \delta_{kl}\delta_{jm}

となることがわかります。
これでクロネッカーのデルタでj \leftrightarrow  kl \leftrightarrow mに対して反対称なテンソルを作ることができました。

比例定数を見つける。

いま言えることは\epsilon_{ijk} \epsilon_{ilm}は上の式に比例していること

 \epsilon_{ijk} \epsilon_{ilm} =  a(\delta_{jl}\delta_{km} - \delta_{kl}\delta_{jm}) ~~~ (1)

です。なので比例定数aを求めます。これはなにか添字に具体的な値を入れてしまえばよいです。 例えば j = 1, k = 2, l = 2, m = 3の場合を計算してみます。左辺は

\epsilon_{i12} \epsilon_{i23} = \epsilon_{312} \epsilon_{123} = 1

となります。ここで完全反対称テンソルは添字に同じ数字があると0になることをつかって真ん中の式をすぐに出しました。本当はi=1,2,3の3パターンを足していることに注意してください。

また(1)式の右辺は

a(\delta_{12}\delta_{23} - \delta_{33}\delta_{31}) = a

となるので左辺と右辺の計算よりa=1となるので

 \epsilon_{ijk} \epsilon_{ilm} =  \delta_{jl}\delta_{km} - \delta_{kl}\delta_{jm}

を導くことができました。

行列式で書こう

上のように完全反対称テンソルクロネッカーのデルタで書くには

  1. 完全反対称テンソルの潰れていない足の個数を確認して1つの項のクロネッカーのデルタの積の数を決める。
  2. 反対称性からデルタに足を割り振っていく。
  3. 具体的な例を計算して比例定数を決める。

という手順で計算するのですが、面倒だし、テンソルの階数に対して応用が効きづらいところがあります。なので、新たなより簡単でわかりやすい方法を考えます。
つまり右辺には添字の入れ替えに対して符号が変わるものになれば良いのです。

もうお気づきになったでしょうか(というか上に書かれてしまっていますが)。 そう、行列式で表すことができます。
行列式は列、もしくは行を入れ替えると符号が変わるという性質を持っています。

行列式の行または列の入れ替えの性質

こちらを参考にしてください。

そうすると先程の式も行列式で書くことができます。

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行列式での書き方は

  1. まず左上に2つの\epsilonのそれぞれから添字をとって作ったデルタを置きます。 ここでは\delta_{jl}があります。
  2. その添字を行列の行、列のように扱って行列式の中の行列の要素を埋めていきます。
  3. まず一番左上の(1,1)成分は\delta_{jl}になったので、その右の(1,2)成分には添字lをとったイプシロンから違う添字mをとってきて作ったデルタ\delta_{jm}を配置します。
  4. このようにして他の部分も埋めていきます。

このようにして行列式で完全反対称テンソルクロネッカーのデルタを使って表すことができます。
何かと便利なので使えるといいかと思います。

行列式でかけるようになったことで3階の完全反対称テンソルであるレヴィ=チヴィタから拡張して、 4階の完全反対称テンソルでも同様の公式をつくることができます。

これについてはまた次回の記事にしたいと思います。